『普通の人びと』

『普通の人びと』 という本を読みましたのでご紹介。

研究題材は「第二次世界大戦当時、ナチスが徴兵した一般人がいかにして虐殺に手を貸したのか」というもの。

 

ユダヤ人大量虐殺の強制収容所は有名ですが、いきなり収容所が建設されて輸送されまくったわけではなく、最初の、あちこちの村や町で殺害が広がっていった経緯を説明しています。

ナチスに思想が染まっていない、いい年したドイツ兵達が「ユダヤ人も外国の人間も精神弱者もどんどん殺せ」と命令が下って、果たしてすんなりその命令に従えたのかどうか?そんなわけがないんです。

殺されるとわかっていながら実際に手を下すことなくただ収容所行きの列車に乗せるのとは違い、自分の指で銃の引き金を引き、敵意を抱けない人の命の奪うことは一般的な倫理観を持つ人間ならかなりしんどいこと。命令を下す立場の人間ですら指示出した後は現場監督を部下に任せて退避してしまったり、「どうしても殺せない」という兵を罰することなく見張り役などに回す上官がいたり、「仲間から臆病者だと思われたくない」という虚栄心から撃ったり、お酒を飲めば撃てる人もいたり。

 

戦争において「無抵抗な人間を殺す」というのはナチスに限らず古今東西ずっと行われていることですが、「どうして普通の人間がそんなことをするに至ったか」についての研究は興味深いものでした。しかもちょっとやそっとではない、大隊として3.8万人ものユダヤ人を殺害した人間たちなので。

ただ、尋問結果をベースにした研究ですが、尋問しても発言者の主観や自己弁護が入ってしまうし、戦時中の記録も完全ではないので、「正確な事実を完璧には捉えられない」ともあって研究は難しいものだなと感じました。そろそろ第二次世界大戦経験者はみんな寿命迎えちゃいますしね。

 

増補 普通の人びと: ホロコーストと第101警察予備大隊 (ちくま学芸文庫 (フ-42-1))

増補 普通の人びと: ホロコーストと第101警察予備大隊 (ちくま学芸文庫 (フ-42-1))