『ナチス狩り』

 私は軽いミリオタと自負しているのですが、周囲に同士がおらず情報が偏りがちでなにかと取りこぼしがあるなと感じています。そんなで33歳にしてはじめて知った「ユダヤ旅団」という存在についてのおはなしです。

 

ナチス狩り (新潮文庫)

ナチス狩り (新潮文庫)

 

 

WWⅡでナチスユダヤ人に対して非道な行いをしたことは有名ですが、それに対しパレスチナから派遣されたユダヤ人5000人の軍隊「ユダヤ旅団」は多分かなりマイナーなものでしょう。それもそのはず、当時イギリス委任統治領であったパレスチナから派遣されたのは1944年10月末頃から、ヒトラーが自殺する半年ほど前という終盤も終盤で、なおかつイギリスとしては「将来パレスチナを担う若者ばかりだから、危険な前線に出してユダヤ庁から恨み買いたくないし…」と後方に回されがちなまま終戦を迎えたからです。活躍や見せ場がないし、大局に影響を与えていないので独ソ戦系の読み物でも出てこないんですよ…!

 

でも逆に戦後に動きがあるんです!

「同胞が毒ガスで殺されているらしい」と聞きつつも、ネットもない時代で戦時下、正しい情報が行き渡らず、ナチスに恨みを持ったままの終戦ユダヤ旅団は自力でナチスに対する報復をと収容所関係者をリストアップし、どんどん殺害を進めていきます。が、それと同時に当時問題になっていた「生き残った75万人のユダヤ人はどこに行けばいいのか?」という課題。戦後すぐはホロコーストがあったことは世界には知られておらず、元いた国に強制送還されて殺害されたり(ユダヤ人差別がなくなったわけではない…)、連合国側のフォローが乏しくせっかく生き残ったのに難民収容所で1ヶ月で1.3万人が死亡したり、戦後3年でもアメリカが受け入れたくれた難民の数は1.2万人にとどまったりと、戦後でも全然生き辛いまま。

 

そこで難民である彼らが望んだのは「聖地パレスチナに向かおう、西へ行こう」というもの。「ヨーロッパからイスラエルへ?道中長くて大変だよね」とかいう問題ではなく、そもそもイギリスが難民をパレスチナに行かせたがらず、ヨーロッパからの脱出も難しい状態に。ヨーロッパの中で誰もユダヤ人を率先して保護しようとしないのに外に出したがらないってお前…という感じです。さすがイギリス。

 

そんな中、両親を失いキリスト教への改宗を求められながら教会で保護されていたユダヤ人少女が「ユダヤ人のいるところに行きたい」とユダヤ旅団の人間に話し、彼らは復讐から手を引いて「生き残った彼らを何とかパレスチナへ」とトラックを走らせたり、船を用意したりと奔走。夜逃げみたいなことしたり、ハンストしたり…旅団に帰還命令が出たときには、「ヨーロッパの中で生き抜く技術を教えよう」と旅団は現地にとどまることを決意し、難民の中から自身のそっくりさんを選んで兵士に仕立て上げてイスラエルに送り返したりとアツい…なんで映画化してないの…?というアツい展開でした。

これ、兵士視点だけじゃなくて、兵士の妹がウクライナから生き延びるエピソードも入ってて、人種だけでこれだけ差別されて人生めちゃくちゃにされるって本当にとんでもないです。

 

 

パレスチナ問題は今も続いていて全然解決されていないわけですが、WWⅡ直後に具体的にこんな動きがあったんだなっていうのを知るのにおすすめです。日本人的見地というと主語大きいですけど、ユダヤ人本当にいたたまれないというか不憫というか、逆によく滅びずに現代まで続いてきたなっていうかんじですね。