『古代中国の24時間』

古代中国ってふわっとしているというか、『三国志』『キングダム』あたりの時代の庶民生活ってどうなってるんだろうという疑問にお答えする本が出ました。『古代中国の24時間』。秦漢時代(B.C.221~A.D.220)の日常史を中高生でも面白く読めるように、専門書レベルの研究をしながらかにり砕けた文章で書かれた本です。

 

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「古代中国の史料ってそんなないから、全一次資料読むのに10年もあればいけるでしょ」と本当に10年かけて史料読んでフィールドワークして出してくださった一冊。専門書じゃないのに出典のリストが厚い。

内容は現代日本人が古代中国にタイムスリップしちゃって街をうろうろしつつ、当時の人の生活を説明するというもの。特に現地人と熱い交流があってストーリーがあるわけではないのですが、「ああ、現代日本人が観察して書いてくれた本なんだなあ」とわかる文章ですごく読みやすかったです。

 

・町の人口密度の話で「現代でいう東京都世田谷区の人口が鳥取県より多いのと似ている」というわかりやすい具体例

象形文字がわかる我々日本人にとって「殷代には夏と冬の字がまだない」という説明から当時の文化というか思考というか習俗が推測できる

・「これ古代中国からあると思ってた?いや実は南北朝時代(A.D.439~A.D.589)くらいからなんだよね」みたいに昔の中国にも違いがあることを知れる

・群、県、郷、里の地域区分を見て「十二国記で見たやつ!!!!」となる

・「庶民の台所道具に金属はなく土器や瓦器での調理なので油と火力が必要な炒め物揚げ物ができず大体スープ」と言われ異世界転生先でおいしいもの作るタイプのなろう小説を思い浮かべる(まあナーロッパだと大丈夫だろう、中国古代ものだと後宮舞台だからそっちも大丈夫そう)

・生理について「調べても記述が見つけられなかった」という記述(男性の専門家だと全然思いつかず省かれがちな部分!)

ハンセン病とか夫婦間や同性同士の性交に関する道具など、大体別枠にされがちなテーマもちゃんと記述してくれているありがたさ(でも紙面の関係で省いたテーマもまだあるらしい)etc

 

余談ですがあほみたいに難しい試験の科挙は隋(A.D.598~)ごろかららしいので、『彩雲国物語』や『十二国記』とかのモデルとなった時代はまだ先のようでした。女性向け小説で一つの定番となっている「古代中国っぽい世界で後宮が舞台の恋愛小説(いわゆる中華系ファンタジー)」はまだ先というか、多分私からするとアヘン戦争で近代英軍にやられるまで中国ほぼ一緒に見えてますね。